第2回:曲線要素写像を affine core と curved correction に分ける

Introduction

前回は,有限要素法で曲線領域を扱うとき,領域を多角形で近似する方法と,曲線境界を曲線として扱う方法があることを説明した.特に,単位円のような丸い領域では,直線辺だけで境界を近似すると,計算領域は厳密には円ではなく多角形になる.そのため,有限要素近似の誤差とは別に,幾何の近似誤差が入る.

今回は,exact-curved FEM の基本になる要素写像を説明する.中心となる考え方は,参照三角形から曲線要素への写像を一度に見るのではなく,次のように二段階に分けて見ることである.

\[ F_K=\Psi_K\circ\Phi_{T_K}. \]

ここで,\(\Phi_{T_K}\) は参照三角形から affine core への写像であり,\(\Psi_K\) は affine core から曲線要素への写像である.この分解により,アフィンなスケーリングと曲線幾何の効果を分けて考えることができる.

三つの要素:参照三角形,affine core,曲線要素

まず,三つの要素を区別する.

  • 参照三角形:\(\widehat T\)
  • affine core:\(T_K\)
  • 物理的な曲線要素:\(K\)

参照三角形 \(\widehat T\) は,すべての要素の出発点になる標準的な三角形である.たとえば,頂点を

\[ \widehat p_1=(0,0)^\top,\quad \widehat p_2=(1,0)^\top,\quad \widehat p_3=(0,1)^\top \]

とする三角形を考える.

次に,affine core \(T_K\) を考える.これは,参照三角形 \(\widehat T\) をアフィン写像で移した直線三角形である.つまり,\(T_K\) はまだ曲がっていない三角形であり,辺はすべて直線である. ただし,細長い三角形や,向きの異なる三角形を許す.この affine core が,要素のスケール,向き,異方性を担う.

最後に,物理的な曲線要素 \(K\) を考える.これは,affine core \(T_K\) をさらに曲線写像で変形して得られる要素である.境界要素であれば,この曲線写像によって,直線辺が円弧や曲線境界に沿うように変形される.

二段階の写像

この三つの要素を,次の二段階の写像でつなぐ.

\[ \widehat T \overset{\Phi_{T_K}}{\longrightarrow} T_K \overset{\Psi_K}{\longrightarrow} K. \]

まず,

\[ \Phi_{T_K}:\widehat T\to T_K \]

はアフィン写像である.これは,参照三角形を拡大・縮小し,回転・反転・平行移動して,直線三角形 \(T_K\) を作る写像である.この部分が,三角形のサイズ,向き,異方性を表す.

次に,

\[ \Psi_K:T_K\to K \]

は曲線補正である.これは,直線三角形 \(T_K\) を曲線要素 \(K\) へ移す写像である.境界要素では,直線辺を曲線境界へ乗せる役割をもつ.

したがって,参照三角形から物理的な曲線要素への写像は,

\[ F_K=\Psi_K\circ\Phi_{T_K}:\widehat T\to K \]

となる.

三つの座標を区別する

この分解では,三つの座標を区別しておくと分かりやすい.

\[ \widehat x\in\widehat T,\quad y=\Phi_{T_K}(\widehat x)\in T_K,\quad x=F_K(\widehat x)=\Psi_K(y)\in K. \]

ここで,\(\widehat x\) は参照三角形上の座標,\(y\) は affine core 上の座標,\(x\) は物理的な曲線要素上の座標である.

つまり,計算や解析では,

\[ \widehat x \longrightarrow y \longrightarrow x \]

という流れを常に意識する.この区別をしておくと,どの段階で異方性が入り,どの段階で曲率が入るのかが見えやすくなる.

なぜ一つの写像として扱わないのか

もちろん,参照三角形から曲線要素への写像 \(F_K\) だけを考えることもできる.実装上は,実際に \(F_K\) が要素写像として働く.しかし,解析の観点では,\(F_K\) をそのまま一つの写像として扱うと,二つの異なる効果が混ざってしまう.

一つは,アフィンなスケーリングの効果である.これは,要素の大きさ,向き,細長さに関係する.異方性メッシュの解析では,この部分が非常に重要になる.

もう一つは,曲線幾何の効果である.これは,境界が曲がっていることや,要素写像が非アフィンであることに由来する.この効果は,\(\Psi_K\) やその導関数 \(D\Psi_K\),\(D^2\Psi_K\) によって表れる.

したがって,

\[ F_K=\Psi_K\circ\Phi_{T_K} \]

と分けておくと,

  • 異方性やスケールは \(\Phi_{T_K}\) 側で見る
  • 曲率や境界の曲がりは \(\Psi_K\) 側で見る

という整理ができる.この分離が,exact-curved FEM の基本的な考え方である.

要素写像の微分

要素写像は

\[ F_K=\Psi_K\circ\Phi_{T_K} \]

である.したがって,連鎖律により,

\[ DF_K(\widehat x) = D\Psi_K(\Phi_{T_K}(\widehat x))\,D\Phi_{T_K} \]

となる.

ここで \(\Phi_{T_K}\) はアフィン写像なので,\(D\Phi_{T_K}\) は定数行列であり,二階以上の微分は消える. そのため,曲率に関係する項は \(\Psi_K\) の高階微分から現れる.

このことは,曲線要素での補間誤差解析において非常に重要である. アフィン要素では現れない曲率項が,\(\Psi_K\) の二階微分を通じて現れるからである.

affine core とは何か

ここで使う affine core という言葉は,特別な構造をもつ新しい要素を意味しているわけではない. 単に,曲線要素 \(K\) の背後にある直線三角形 \(T_K\) を指している.

つまり,affine core は「曲げる前の三角形」である.

この affine core 上では,通常のアフィン三角形に対する補間誤差評価を使うことができる. その後,\(\Psi_K\) を通じて,その評価を曲線要素 \(K\) 上へ移す. この流れが,exact-curved FEM における補間誤差解析の基本になる.

補間誤差解析での流れ

曲線要素 \(K\) 上の関数 \(v\) を考える. この関数を affine core \(T_K\) 上に戻すために,

\[ w:=v\circ\Psi_K \]

と置く. このとき,\(w\) は \(T_K\) 上の関数になる.

exact-curved Lagrange 補間作用素を \(I_L^1\),affine core 上の通常の Lagrange 補間作用素を \(I_{T_K}^1\) と書くと,

\[ I_L^1v = \left(I_{T_K}^1w\right)\circ\Psi_K^{-1} \]

である.したがって,

\[ v-I_L^1v = \left(w-I_{T_K}^1w\right)\circ\Psi_K^{-1} \]

となる.

この式の意味は重要である. 曲線要素上で直接補間誤差を評価するのではなく,まず affine core 上の補間誤差を評価し,それを \(\Psi_K^{-1}\) を通じて曲線要素へ戻す. これにより,アフィン要素上の既存の補間誤差評価を利用できる.

方向微分はどう変わるか

異方性補間誤差評価では,方向微分が重要になる. affine core \(T_K\) 上での方向を \(r_i\) とする. この方向は,曲線写像 \(\Psi_K\) によって物理要素 \(K\) 上の方向へ移される.

具体的には,\(x=\Psi_K(y)\) とすると,

\[ \tau_{K,i}(x) = D\Psi_K(y)r_i = D\Psi_K(\Psi_K^{-1}(x))r_i \]

と定義する. この \(\tau_{K,i}\) を,\(r_i\) に対応する transported direction と見る.

このとき,\(w=v\circ\Psi_K\) に対して,

\[ \frac{\partial w}{\partial r_i}(y) = \frac{\partial v}{\partial \tau_{K,i}}(\Psi_K(y)) \]

となる. つまり,affine core 上の方向微分は,曲線要素上の transported direction に沿った方向微分として表される.

この関係により,最終的な補間誤差評価を,曲線要素 \(K\) 上の量だけで書くことができる.

二階微分と曲率項

一階微分では,主に \(D\Psi_K\) が現れる. 一方,二階微分を考えると,\(D^2\Psi_K\) が現れる. これが曲率の影響である.

たとえば,\(w=v\circ\Psi_K\) を二階微分すると,

\[ \frac{\partial^2 w}{\partial r_i\partial r_j}(y) = D^2v(\Psi_K(y)) \left[ D\Psi_K(y)r_i, D\Psi_K(y)r_j \right] + \nabla v(\Psi_K(y))\cdot D^2\Psi_K(y)[r_i,r_j] \]

となる.

右辺の第一項は,\(v\) の二階微分が \(D\Psi_K\) によって変換された項である. 第二項は,\(\Psi_K\) の二階微分を含む. この第二項が,アフィン要素では消える曲線幾何特有の項である.

したがって,曲線要素の補間誤差解析では,単に \(v\) の二階微分だけでなく,曲線写像の二階微分も管理する必要がある.

実装との関係

理論では,\(\Phi_{T_K}\) と \(\Psi_K\) を明確に分けて考える. しかし,FEniCSx/Gmsh の実装では,ユーザーが常に \(\Psi_K\) を解析的に入力しているわけではない. 実装上は,Gmsh が生成した curved coordinate map が,要素写像 \(F_K\) の計算上の実現として使われる.

そのため,実装では

\[ F_K:\widehat T\to K \]

が直接使われるように見える. 一方,理論では,この \(F_K\) を

\[ F_K=\Psi_K\circ\Phi_{T_K} \]

と見て,affine scaling と curved correction を分けて解析する.

ここで重要なのは,実装上の coordinate map と理論上の分解を混同しないことである. 実装では \(F_K\) が quadrature や basis evaluation のために使われる. 解析では,その \(F_K\) の背後に affine core と curved correction を見て,誤差評価を整理する.

まとめ

今回は,exact-curved FEM の基本となる要素写像

\[ F_K=\Psi_K\circ\Phi_{T_K} \]

の意味を説明した. この分解により,直線三角形としての affine core \(T_K\) と,曲線幾何を表す curved correction \(\Psi_K\) を分けて考えることができる.

この分け方の利点は,アフィン要素上の補間誤差評価をまず \(T_K\) 上で使い,その後 \(\Psi_K\) を通じて曲線要素 \(K\) 上へ移せることである. また,異方性の影響と曲率の影響を別々に追跡できる点も重要である.

次回は,Gmsh の geometry order について説明する. 特に,geometry order は有限要素次数ではない,という点を詳しく見る. これは,今回の数値実験を理解する上で非常に大切である.

参考文献

この第2回では,曲線要素写像の分解と補間誤差解析の基本構造を説明した. 背景となる文献として,曲線要素上の補間理論,古典的な curved finite elements,および異方性補間誤差評価に関する文献を挙げておく.

  1. C. Bernardi, Optimal finite-element interpolation on curved domains, SIAM Journal on Numerical Analysis, 26(5), 1212--1240, 1989.
  2. P. G. Ciarlet and P.-A. Raviart, Interpolation theory over curved elements, with applications to finite element methods, Computer Methods in Applied Mechanics and Engineering, 1, 217--249, 1972.
  3. M. Zlámal, Curved elements in the finite element method. I, SIAM Journal on Numerical Analysis, 10(1), 229--240, 1973.
  4. M. Lenoir, Optimal isoparametric finite elements and error estimates for domains involving curved boundaries, SIAM Journal on Numerical Analysis, 23(3), 562--580, 1986.
  5. H. Ishizaka, K. Kobayashi and T. Tsuchiya, General theory of interpolation error estimates on anisotropic meshes, Japan Journal of Industrial and Applied Mathematics, 38(1), 163--191, 2021.
  6. H. Ishizaka, K. Kobayashi and T. Tsuchiya, Anisotropic interpolation error estimates using a new geometric parameter, Japan Journal of Industrial and Applied Mathematics, 40, 475--512, 2023.
  7. H. Ishizaka, Exact-curved Lagrange finite elements for the Poisson problem in two dimensions, submitted.

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