第1回:有限要素法で「丸い領域」を丸いまま扱いたい
Introduction
有限要素法で円領域や曲線境界をもつ領域を扱うとき,多くの場合,まず領域を三角形や四面体で近似する.二次元の単位円であれば,円周を直線の辺でつないだ多角形領域として近似し,その上で有限要素法を適用する.これは実装が簡単であり,標準的な方法でもある.
しかし,このとき計算している問題は,厳密には元の円領域上の問題ではなく,多角形近似された領域上の問題である.つまり,有限要素近似による誤差だけでなく,領域を多角形で近似したことによる幾何誤差も含まれる.
そこで自然に出てくる問いは次である.
有限要素法で,曲がった領域を本当に曲がったまま扱うことはできないのか?
このシリーズでは,この問いを出発点として,exact-curved finite element method の理論と実装を少しずつ整理していく. 第1期では,二次元の Poisson 問題を題材に,曲線境界をもつ領域上の Lagrange 有限要素法を考える.
この記事は,投稿中の論文
Exact-curved Lagrange finite elements for the Poisson problem in two dimensions
の数値実験部分を,実装ノートとして補足するシリーズの第1回である.論文本文では理論と結果を中心にまとめたため,ブログでは,Gmsh/FEniCSx で曲線幾何をどう扱うか,geometry order と有限要素次数の違いは何か,UFL の grad と dx の内部で何が起きているかを,できるだけ丁寧に記録していく.
直線メッシュと曲線メッシュ
たとえば,単位円 \[ \Omega=\{(x_1,x_2)^{\top}\in\mathbb R^2:x_1^2+x_2^2<1\} \] を考える.通常の三角形メッシュでは,円周は直線の辺で近似される.そのため,計算領域は円ではなく,多角形になる.
一方で,曲線メッシュを用いると,境界辺そのものを曲線として表すことができる.このとき,境界が円周に沿うように要素写像を作れば,計算領域はより正確に元の曲線領域を表すことができる.
ここで重要なのは,曲線メッシュを使うことと,高次有限要素を使うことは同じではない,という点である.メッシュの幾何をどれだけ正確に表すかという問題と,未知関数をどの次数の多項式で近似するかという問題は,別の問題である.
geometry order と finite element degree は違う
今回の数値実験では,有限要素空間は常に一次 Lagrange 要素,つまり \(P^1\) 要素に固定する.その上で,幾何表現の次数だけを変える.
記号で書けば,有限要素次数は \[ k=1 \] に固定し,幾何次数を \[ q_{\rm geo}=1,2,3 \] と変える.
\(q_{\rm geo}=1\) の場合,境界は直線辺で表される.これは通常の polygonal mesh に対応する.一方,\(q_{\rm geo}=2,3\) とすると,境界や要素の幾何表現が曲線的になり,単位円をより正確に表すことができる.
ただし,未知関数の近似空間は \(P^1\) のままである.したがって,幾何表現を高次にしても,有限要素近似そのものが自動的に高次になるわけではない.この点は,数値結果を読むときに非常に重要である.
理論で使う要素写像
曲線要素上の有限要素法には,Ciarlet--Raviart,Zlámal,Scott,Lenoir らによる古典的研究がある.また,Bernardi は曲線領域に正確に適合する有限要素補間理論を展開している.このシリーズで扱う exact-curved FEM は,これらの流れを背景にしつつ,要素写像を affine core と curved correction に分けて見直す立場から出発する.
このシリーズの中心になるのは,要素写像の分解である.曲がった要素 \(K\) を扱うために,参照三角形 \(\widehat T\) から物理要素 \(K\) への写像を \[ F_K=\Psi_K\circ\Phi_{T_K} \] と書く.
ここで,\(\Phi_{T_K}\) は参照三角形から直線三角形である affine core \(T_K\) への写像である.一方,\(\Psi_K\) は affine core \(T_K\) を曲要素 \(K\) へ移す曲線補正である.
つまり,
- \(\Phi_{T_K}\):三角形のスケール,向き,異方性を表す部分
- \(\Psi_K\):曲線境界や曲がった幾何を表す部分
と分けて考える. この分解により,有限要素補間の誤差を,まず affine core 上で評価し,その後,曲線写像 \(\Psi_K\) を通じて物理要素へ移すことができる.
実装では何が起きているのか
実装では,解析的な \(\Psi_K\) を自分で完全に書き下しているわけではない.Gmsh で曲線メッシュを作り,それを FEniCSx に読み込むと,メッシュの中に coordinate map が保存される.この coordinate map が,数値積分や基底関数の評価の段階で,要素写像 \(F_K\) の役割を果たす.
FEniCSx/UFL では,弱形式を物理座標で書く.たとえば Poisson 問題なら, \[ \int_{\Omega_h}\nabla u_h\cdot\nabla v_h\,dx \] のように書く.しかし,実際の要素積分は参照要素上で行われる.そのとき,勾配には \(DF_K^{-\top}\),積分測度には \(|\det DF_K|\) が内部的に現れる.
つまり,コード上で明示的に Jacobian を書いていなくても,UFL の grad と dx の内部で,参照要素から物理要素への変換が処理されている.この点は,後の回で詳しく見る.
このシリーズで扱うこと
第1期では,次の内容を順に整理する予定である.
- 有限要素法で「丸い領域」を丸いまま扱いたい
- 曲線要素写像 \(F_K=\Psi_K\circ\Phi_{T_K}\) の意味
- Gmsh の geometry order と finite element degree の違い
- FEniCSx/UFL における Jacobian,
grad,dxの意味 - 単位円上の Poisson 問題で,直線メッシュと曲線メッシュを比較する
その後,高次 Lagrange 要素,三次元の曲四面体,非適合要素,混合型要素,さらに Stokes 問題への拡張を考えていく.特に,Crouzeix--Raviart 要素や Raviart--Thomas 要素を曲単体上でどう定義するかは,今後の大きなテーマになる.
まとめ
この第1回では,曲線領域を有限要素法で扱うときの基本的な問題意識を整理した.通常の polygonal mesh では,円領域は多角形として近似される.一方,exact-curved FEM の立場では,曲線境界を曲線として扱い,物理領域により忠実な有限要素空間を構成することを目指す.
ただし,曲線幾何を高次にすることと,未知関数の近似次数を高次にすることは同じではない.この区別が,今回の数値実験を理解する鍵である.
次回は,要素写像 \[ F_K=\Psi_K\circ\Phi_{T_K} \] の意味をもう少し丁寧に見ていく.特に,affine core と curved correction を分けることで,何が見通しやすくなるのかを説明する.
参考文献
このシリーズの理論的背景として,曲線要素上の有限要素補間,曲線境界をもつ領域での有限要素法,異方性補間誤差評価,および筆者の関連研究を挙げておく.第1期では,特に Bernardi の exact curved element の考え方と,Ciarlet--Raviart,Zlámal,Scott,Lenoir らの曲線要素に関する古典的研究を意識している.また,本シリーズは,筆者の異方性メッシュ上の補間誤差解析,新しい幾何パラメータ,および投稿中の exact-curved Lagrange FEM 論文へ接続する研究ノートでもある.
- C. Bernardi, Optimal finite-element interpolation on curved domains, SIAM Journal on Numerical Analysis, 26(5), 1212--1240, 1989.
- P. G. Ciarlet and P.-A. Raviart, Interpolation theory over curved elements, with applications to finite element methods, Computer Methods in Applied Mechanics and Engineering, 1, 217--249, 1972.
- M. Zlámal, Curved elements in the finite element method. I, SIAM Journal on Numerical Analysis, 10(1), 229--240, 1973.
- R. Scott, Finite Element Techniques for Curved Boundaries, Ph.D. thesis, Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, MA, 1973.
- M. Lenoir, Optimal isoparametric finite elements and error estimates for domains involving curved boundaries, SIAM Journal on Numerical Analysis, 23(3), 562--580, 1986.
- C. M. Elliott and T. Ranner, Finite element analysis for a coupled bulk--surface partial differential equation, IMA Journal of Numerical Analysis, 33(2), 377--402, 2013.
- G. Dziuk and C. M. Elliott, Finite element methods for surface PDEs, Acta Numerica, 22, 289--396, 2013.
- H. Ishizaka, K. Kobayashi and T. Tsuchiya, Anisotropic interpolation error estimates using a new geometric parameter, Japan Journal of Industrial and Applied Mathematics, 40, 475--512, 2023.
- H. Ishizaka, Exact-curved Lagrange finite elements for the Poisson problem in two dimensions, submitted.
