FFEMにおけるRitz射影と点値外挿
Introduction
第1回から第4回では,円周率,数値微分,数値積分,ODEを通して,外挿法の基本的な考え方を見てきました.共通していたのは,近似値そのものではなく,その背後にある誤差展開を利用するという点です.
第5回では,いよいよ有限要素法における外挿法を考えます.楕円型偏微分方程式,特に Poisson 問題に対する有限要素近似の誤差展開が扱います.ここで重要になるのは,通常の \(L^2\) 誤差や \(H^1\) 誤差ではなく,節点における点値誤差です.
1.今回の目的
典型的な Poisson 問題 \[ -\Delta u=f \quad \text{in } \Omega,\quad u=0 \quad \text{on } \partial\Omega \] を考えます.弱形式は, \[ (\nabla u,\nabla v)=(f,v) \quad v\in H_0^1(\Omega) \] です. これを一次 Lagrange 有限要素空間 \(V_h\subset H_0^1(\Omega)\) で離散化すると, 有限要素解 \(u_h\in V_h\) は \[ (\nabla u_h,\nabla v_h)=(f,v_h) \quad v_h\in V_h \] を満たします.
通常の誤差評価では, \[ \|\nabla(u-u_h)\|_{L^2}=O(h), \quad \|u-u_h\|_{L^2}=O(h^2) \] のような評価を考えます. しかし,外挿法で重要になるのは, ある節点 \(P\) における \[ u_h(P)-u(P) \] の振る舞いです.
適切なメッシュ構造と十分な正則性のもとで,節点 \(P\) において \[ u_h(P) = u(P)+h^2e(P)+O(h^4L(h)) \] のような誤差展開が得られることが説明します. ここで \(e\) は \(h\) に依存しない補正関数であり, \(L(h)\) は対数因子です.
重要なのは,単に \[ u_h(P)-u(P)=O(h^2) \] という評価があることではありません. 外挿法に必要なのは, \[ u_h(P)=u(P)+h^2e(P)+\text{より高次の項} \] という漸近展開です. \(h^2e(P)\) という主誤差項が安定して存在するからこそ, Richardson 外挿によってその項を消すことができます.
2.Ritz 射影とは何か
有限要素法における誤差展開を考えるとき,Ritz 射影が中心的な役割を果たします. Ritz 射影 \(R_hu\in V_h\) は, \[ (\nabla R_hu,\nabla v_h) = (\nabla u,\nabla v_h) \quad v_h\in V_h \] で定義されます. 同値に, \[ (\nabla(u-R_hu),\nabla v_h)=0 \quad v_h\in V_h \] です. この直交性を Galerkin 直交性と呼びます.
Poisson 問題で有限要素解 \(u_h\) を考えると, \[ (\nabla u_h,\nabla v_h)=(f,v_h) \] であり,連続解 \(u\) は \[ (\nabla u,\nabla v_h)=(f,v_h) \] を満たします. したがって, \[ (\nabla u_h,\nabla v_h) = (\nabla u,\nabla v_h) \] です. つまり,このモデル問題では \[ u_h=R_hu \] と見なせます.
そのため,有限要素解の点値誤差 \[ u_h(P)-u(P) \] を調べることは,Ritz 射影の点値誤差 \[ R_hu(P)-u(P) \] を調べることに対応します.
3.なぜ補間 \(I_hu\) を引くのか
直接 \(R_hu-u\) を展開するのではなく,まず \[ R_hu-I_hu \] を調べることです.ここで \(I_hu\) は nodal interpolation です.
なぜなら,節点 \(P\) では \[ I_hu(P)=u(P) \] が成り立つからです.したがって,節点では \[ R_hu(P)-u(P) = R_hu(P)-I_hu(P) \] です.つまり,節点値誤差は \(R_hu-I_hu\) の値として見ればよいことになります.
この変形が非常に重要です. \(R_hu-I_hu\) は有限要素空間 \(V_h\) に属します. そのため,Galerkin 直交性や Ritz 射影の安定性を使って解析しやすくなります.
4.整合誤差の展開
Galerkin 直交性から, 任意の \(\varphi_h\in V_h\) に対して \[ (\nabla(R_hu-u),\nabla\varphi_h)=0 \] です.したがって, \[ (\nabla(R_hu-I_hu),\nabla\varphi_h) = (\nabla(u-I_hu),\nabla\varphi_h) \] となります. 右辺 \[ (\nabla(u-I_hu),\nabla\varphi_h) \] は,補間誤差が作る整合誤差です.
均一な三角形分割の構造を利用して,この整合誤差が \[ (\nabla(u-I_hu),\nabla\varphi_h) = h^2(\nabla e,\nabla\varphi_h) + h^4\rho_h(u;\varphi_h) \] のように展開されます. ここで \(e\) は \(h\) に依存しない補正関数です. また,\(\rho_h\) は剰余項です.
この式は,有限要素法における外挿法の核心です. つまり,補間誤差が単に小さいだけでなく, 弱形式の中で \[ h^2(\nabla e,\nabla\varphi_h) \] という主項を持つことを示しています.
この整合誤差展開を導くために, 三角形の辺,法線方向,接線方向の微分を丁寧に追跡します. ここで均一メッシュ構造が重要になります. 隣接三角形どうしの寄与がうまく打ち消し合うため, 整合誤差の主項を安定して取り出すことができます.
5.Ritz 射影の点値誤差展開
整合誤差展開を用いると, \[ R_hu-I_hu \] は形式的に \[ R_hu-I_hu = h^2R_he+h^4R_hr_h(u) \] のように表されます. ここで \(R_he\) は補正関数 \(e\) の Ritz 射影であり, \(R_hr_h(u)\) は剰余項に対応する拡張 Ritz 射影です.
節点 \(P\) では \(I_hu(P)=u(P)\) なので, \[ R_hu(P)-u(P) = h^2R_he(P)+h^4R_hr_h(u)(P) \] となります. さらに,Ritz 射影の点値安定性を使うと, \[ R_he(P)=e(P)+O(h^2L(h)) \] のように考えられ,最終的に \[ R_hu(P) = u(P)+h^2e(P)+O(h^4L(h)) \] という展開が得られます.
この式が,FEMにおける Richardson 外挿の出発点です.
6.Richardson 外挿
いま,節点 \(P\) において \[ u_h(P)=u(P)+h^2e(P)+O(h^4L(h)) \] が成り立つとします. 同じ点 \(P\) が細かいメッシュにも含まれていると仮定すると, \[ u_{h/2}(P) = u(P)+\frac{h^2}{4}e(P)+O(h^4L(h)) \] です.
この二つを \[ u_{\mathrm{ext}}(P) = \frac{4u_{h/2}(P)-u_h(P)}{3} \] と組み合わせると, \[ \begin{aligned} u_{\mathrm{ext}}(P) &= \frac{ 4\left(u(P)+\frac{h^2}{4}e(P)+O(h^4L(h))\right) - \left(u(P)+h^2e(P)+O(h^4L(h))\right) }{3} \\ &= u(P)+O(h^4L(h)). \end{aligned} \]
つまり,節点値については,もとの有限要素解が \[ O(h^2) \] の点値誤差を持つとき,外挿により \[ O(h^4L(h)) \] の精度が期待できます.
ここで大切なのは,外挿が \(L^2\) ノルムや \(H^1\) ノルムを直接改善しているわけではないことです. 議論で主役になるのは,節点 \(P\) における点値誤差展開です. したがって,外挿後に何が高精度になるのかを明確にしておく必要があります.
7.なぜメッシュ構造が重要なのか
FEMにおける外挿法では,メッシュ構造が非常に重要です. 基本になるのは,均一な三方向メッシュや, blockwise uniform mesh のように,局所的に規則的な構造を持つ三角形分割です.
理由は,誤差展開の主項を安定して取り出すためです. 一般の不規則メッシュでは,隣接要素からの寄与がきれいに打ち消し合わず, \[ h^2e(P) \] という \(h\) に依存しない主誤差係数を持つ展開が壊れる可能性があります.
つまり,有限要素法で外挿が効くためには, 単に \(u_h\to u\) が成り立つだけでは不十分です. 次のような構造が必要になります.
- メッシュが十分に規則的であること,
- 粗いメッシュと細かいメッシュが整合していること,
- 同じ節点 \(P\) で \(u_h(P)\) と \(u_{h/2}(P)\) を比較できること,
- 誤差の主項 \(e(P)\) が \(h\) に依存せず安定して現れること.
この意味で,FEM外挿は「メッシュを細かくして二つの解を混ぜればよい」 という単純な話ではありません. 外挿が効くための幾何的条件が背後にあります.
8.境界と角の問題
境界や角の影響も重要な問題として扱われています. 理想的な展開 \[ R_hu(P)=u(P)+h^2e(P)+O(h^4L(h)) \] を得るには,解 \(u\) に高い正則性が必要になります. 資料中では,この結果には \(C^4\) 正則性が必要であり, 一般の多角形領域ではこれは現実的でない,という注意があります.
特に,多角形領域の角では特異性が生じやすく, 解が十分滑らかでないことがあります. その場合,外挿の次数は理想通りには上がりません. ただし,角から離れた内部節点では, より弱い正則性のもとでも漸近展開が残ることがあります. 内部節点に対する弱い形の展開が述べられています.
したがって,FEM外挿を考えるときには, 点 \(P\) が領域内部にあるのか,境界近くにあるのか,角に近いのかを区別する必要があります.
9.曲線境界の場合
さらに,曲線境界を持つ領域では,境界近くのメッシュ構造が問題になります. 滑らかな境界を持つ領域に対して, 境界付近の要素が理想的な三方向構造からずれるため, 展開の剰余が悪くなることが説明されています. この場合,外挿公式は \[ \frac{4u_{h/2}(P)-u_h(P)}{3} = u(P)+O(h^3L(h)) \] のように,理想的な \(O(h^4)\) から落ちる場合があります.
これは非常に重要です. FEMにおける外挿法では,境界の扱いが精度に直接影響します. 特に,曲線境界を直線要素で近似するのか,曲線要素で正確に表すのか, あるいは blockwise に構造化されたメッシュを使うのかによって, 誤差展開の形が変わります.
この点は,私自身の exact-domain curved FEM の研究とも関係します. 領域近似誤差を別に持ち込むのではなく, 物理領域上で直接有限要素空間を構成できれば, 外挿法に必要な誤差展開を曲線領域上でどう回復するか, という問題を考えることができます.
10.今回のまとめ
- FEMにおける外挿法では,Ritz 射影の点値誤差展開が中心になる.
- Poisson 問題では,有限要素解 \(u_h\) は Ritz 射影 \(R_hu\) と見なせる.
- 節点では \(I_hu(P)=u(P)\) なので,点値誤差は \(R_hu-I_hu\) の解析に帰着される.
- 整ったメッシュでは, \[ R_hu(P)=u(P)+h^2e(P)+O(h^4L(h)) \] のような展開が得られる.
- この展開により, \[ \frac{4u_{h/2}(P)-u_h(P)}{3} \] は高精度な点値近似になる.
- ただし,メッシュ構造,境界,角の特異性,解の正則性が非常に重要である.
第5回の結論は, \[ \text{FEM外挿の本質は,Ritz 射影の点値誤差展開である} \] ということです. 外挿法は,有限要素解を二つ混ぜるだけの操作ではありません. その背後には,メッシュ構造,Galerkin 直交性,整合誤差展開,Ritz 射影の安定性がある.
次回は, defect correction を扱います. 外挿法が「二つのメッシュ解を組み合わせる方法」だとすれば, defect correction は「低次スキームの解に,高次スキームの欠陥を使って補正を入れる方法」です. どちらも,背後には誤差展開があります.
参考文献
- Rolf Rannacher, Special Topics in Numerics III: Extrapolation and Defect Correction, Lecture Notes, Heidelberg University, 2017.
- Q. Lin and N. Yan, Construction and Analysis of High Efficient Finite Element Methods, Hebei University Publishers, 1996.
- M. Zlámal, On the finite element method, Numerische Mathematik, 12, 394--409, 1968.
